放射線治療科
診療責任者
- 北瀬 正則
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- 放射線科統括部長
- 兼 放射線診断科部長
- 兼 放射線治療科部長
患者の皆さまへの一言
放射線治療は手術療法、化学療法と並ぶがん治療の三本柱の一つとして、重要な役割を担っています。従来からのリニアックに加え、より高度な治療が可能な、強度変調放射線治療(IMRT)専用機を新たに導入し、治療を行っております。身体的負担が少ない放射線治療は、合併症で手術が困難な方や、高齢の方にも向いている治療といえます。また、治療期間が長期に及ぶことが多いため、スタッフ一同協力して治療が受けられるように配慮しております。
診療内容
- 放射線治療
2018年7月より新型放射線治療機を新規導入し、強度変調放射線治療(IMRT)を開始しております。IMRTとは、患部に放射線を集中して照射することができる技術のことで、治療効果を高めつつ副作用を減らすことができる放射線治療法です。特に前立腺がんや頭頚部がん、脳腫瘍などに有用です。(実際の適応の有無については放射線治療医が判断いたします。)
<放射線治療機器>
放射線治療機(IMRT専用) 放射線治療機(汎用型)<適応疾患>
・前立腺がん
PSA検診の普及などにより早期で発見されるケースが増えています。前立腺周囲には膀胱や直腸があり、放射線による膀胱炎(頻尿や尿勢低下、排尿時痛、血尿)や直腸炎(直腸出血)などが問題となります。IMRTの導入により、膀胱や直腸への放射線量を抑えながら前立腺に十分な放射線量を確保することができ、副作用を低減しつつ従来以上の治療効果が期待できるようになりました。治療回数は28回(術後の場合は26回)を標準としており、ホルモン療法を併用します(低リスクの場合は放射線治療のみとなります)。副作用は頻尿、排尿時痛、尿勢低下、治療後時間が経過してからの血便、血尿などがあります。(図:前立腺がんに対するIMRT)
・頭頸部がん
咽頭がんや喉頭がんなど主に頸部に発生するがんです。手術が困難なことや、術後の後遺症が大きいことなどから放射線治療の適応となることが多い疾患です。頭頸部には視神経・視交叉、脳幹、脊髄、耳下腺、下顎骨などの重要な臓器が密集しており、従来の治療では重篤な副作用が出現したり治療効果が落ちたりといったことが生じやすい領域でした。IMRTにより、重要臓器を極力さけながら病変部に十分な放射線量を投与することが可能となりました。副作用は頸部の広範囲の皮膚炎や粘膜炎による疼痛、唾液腺障害による唾液分泌低下、味覚障害、顎骨壊死など多岐にわたります。(図:頭頸部がんに対するIMRT)
・乳がん
主に手術のあとの術後照射の適応となります。患側の全乳房に対して再発リスクを低減するために放射線治療を行います。腋窩リンパ節転移の有無により同側頚部へも照射することがあります。標準的には25回の治療となりますが、切除断端が陽性の場合は5回程度の追加照射を行います。副作用は皮膚炎(発赤、着色、日焼け様症状)、倦怠感、創部皮膚硬結、放射線肺炎(稀:咳、発熱、呼吸苦など)、リンパ浮腫などが起こりえます。(図:乳がんに対する放射線治療)
・肺がん
手術不能の場合や縦隔リンパ節に転移がある場合などに根治的放射線治療の適応となります。基本的に化学療法と同時併用で行いますが、年齢や全身状態などを考慮して放射線治療単独となる場合もあります。治療は抗がん剤と併用の場合、標準的に30回、放射線治療単独の場合は33~35回程度行います。副作用は皮膚炎、放射線食道炎(嚥下時違和感、痛み)、放射線肺炎(咳、発熱、呼吸苦など)が主体です。
(図:肺がんに対する放射線治療)早期肺がんについては、多方向から集中的に放射線を当てる定位放射線治療を行っております。週2回、2週間程度の治療となります。(部位により期間が長くなる場合があります。)手術に匹敵する効果が期待される治療です。副作用は治療期間中にはほとんどありませんが、治療後時間がたってから放射線肺炎や肋骨骨折が起こることがあります。(図:肺がんに対する定位放射線治療)
いずれの治療においても、呼吸により病変の移動が大きい場合には、呼吸同期照射を併用し、副作用の低減をはかっています。
・食道がん
内視鏡切除後の追加治療や進行例での根治的治療に放射線治療が用いられます。抗がん剤と同時併用で30回前後の放射線治療を行います。病変の部位やリンパ節転移の分布によりますが、IMRTで行うケースが増えてきています。IMRTでは、肺への過剰な照射を避ける目的で、固定方向から照射を行うTomoDirectという照射法を使用しています。IMRTを用いることで、心臓への線量低減も図ることができるため、副作用の低減に寄与できると考えています。副作用は主に放射線食道炎(嚥下時違和感、痛み)、皮膚炎、放射線肺炎、放射線心膜炎などがあげられます。(図:食道がんに対する放射線治療)
・原発性脳腫瘍
脳腫瘍は大きく分けて原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍があります。原発性脳腫瘍は脳の神経細胞より発生するもので、転移性脳腫瘍はほかの部位にできたがんが脳に転移したものです。
原発性脳腫瘍は主に手術後の術後照射の適応となります。腫瘍の部位だけでなくその周囲も再発リスクが高いため、広範囲の照射となるケースが多くなります。頭頚部同様に近くに眼球や水晶体、視神経、脳幹といった重要臓器があるため、IMRTがよい適応となります。治療は30回程度が標準です。副作用は局所の脱毛、頭痛、気分不快、白質脳症、放射線脳壊死などがあります。(図:原発性脳腫瘍に対するIMRT)
・転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍は腫瘍サイズが大きく症状が強い場合などを除いては手術となることは少なく、放射線治療を行うことが多いです。転移の数が少ない場合には、病変部位に照射範囲を絞って高線量を当てて治療を行う脳定位放射線治療が有効です。脳定位放射線治療は1~3回の治療となります。副作用はてんかん、放射線脳壊死などがあります。(図:脳定位放射線治療)
転移の数が多い場合や、サイズが大きい場合には脳全体へ治療を行う全脳照射が基本となります。目立つ転移の数がある程度限られている場合には脳全体に治療を行いつつ、目立つ病変への線量を上げる同時ブースト照射を行うことも可能です。全脳照射は10~20回程度の治療となります。副作用は脱毛、頭痛、嘔気、食欲不振、白質脳症による認知機能・記銘力低下、放射線脳壊死などがあります。(図:トモセラピーでの全脳照射+局所同時ブースト)
・緩和的放射線治療
骨転移による痛みや腫瘍からの出血など、悪性腫瘍に起因する諸症状の改善を目的とします。骨転移に対する疼痛緩和照射は有効性が高く、副作用も少ないため、症状のある方にはおすすめされる治療です。腫瘍からの出血なども、効果がみられるまでに時間はかかりますが有効性は高いと考えています。転移が原因で神経症状が出現し始めている場合などは、診察日当日に治療を開始する緊急照射も行っています。当院で行えない放射線治療
子宮がんに対する腔内照射や前立腺がんに対する小線源治療、粒子線治療等は当院では行えないため実施施設へ紹介となります。<治療開始までの流れ>
他診療科から放射線治療科へ紹介いただき、外来を受診していただきます。医師が治療の適応について判断し、適応があると判断した場合には治療法や副作用などを説明します。治療に納得していただいた場合には同意書にサインをいただきます。その後放射線治療計画用のCT検査を行います。(場合により後日となることもあります。)撮影した治療計画用CTやほかの画像検査の結果などから治療計画を作成し、後日治療を開始することとなります。治療開始は診察日から基本2営業日後となります。(IMRTの場合は1週間程度お時間をいただいております。)
治療回数は治療目的や治療部位などによりさまざまです。治療期間中は基本的に平日毎日行い、土日・祝日はお休みになります。副作用は照射部位や個人差によりさまざまです。詳細は外来受診時に説明いたします。2台の治療機器のどちらを使用するかは疾患の状況などから医師が判断いたします。
診療方針
医療技術は日進月歩であり、特に放射線治療分野では医療技術の進歩が治療の質向上に重要な役割を果たしています。実際、IMRTなどの新技術は従来からすると夢のような治療といっていいものだと思います。しかしながら、高度な医療機器を用いれば、それだけでいい治療ができるというわけではなく、より満足いただける治療を行うには、治療スタッフの対応も重要だと考えています。当院で治療を受けてよかったと思っていただけるように努力していきたいと考えています。
診療実績
疾患別の治療・手術・検査実績(件)
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | ||
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原発部位 | 脳・脊髄 | 5 | 14 | 11 |
頭頸部(甲状腺含む) | 30 | 38 | 28 | |
食道 | 11 | 8 | 6 | |
肺・気管・縦隔 | 55 | 70 | 87 | |
うち肺 | 51 | 68 | 85 | |
乳腺 | 82 | 95 | 58 | |
肝・胆・膵 | 9 | 3 | 6 | |
胃・小腸・結腸・直腸 | 15 | 16 | 16 | |
婦人科 | 9 | 9 | 7 | |
泌尿器系 | 76 | 76 | 80 | |
うち前立腺 | 60 | 62 | 73 | |
造血器リンパ系 | 0 | 1 | 1 | |
皮膚・骨・軟部 | 0 | 1 | 3 | |
その他(悪性) | 0 | 0 | 2 | |
良性 | 1 | 1 | 0 | |
特殊な放射線治療 | 定位(脳) | 6 | 8 | 14 |
定位(体幹部) | 0 | 1 | 9 | |
IMRT | 78 | 164 | 178 | |
新規患者数 | 293 | 333 | 305 | |
実患者数(新患+再患) | 325 | 365 | 359 |
その他
原発巣別新規患者数(日本放射線腫瘍学会構造調査に基づく集計方法による)
医師紹介
氏名 | 役職 | 出身大学 | 医師免許取得年 | 主な専門領域 | 指導医・専門医・認定医など |
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北瀬 正則 | 放射線科統括部長 放射線診断科部長 放射線治療科部長 |
名古屋市立大学 | 1994年 | 画像診断、IVR |
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内山 薫 | 放射線治療科医長 | 名古屋市立大学 | 2008年 | 放射線治療 |
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大住 健史郎 | 放射線治療科医員 | 名古屋市立大学 | 2018年 | 放射線治療 | |
水谷 弘和 | 顧問 | 名古屋市立大学 | 1974年 | 画像診断 |
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水谷 優 | 顧問 | 名古屋市立大学 | 1983年 | 画像診断 |
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